相続対策で絶対にやるべきことリスト!節税よりも先に優先すべき「2つの対策」とは?

「相続対策」と聞くと、多くの人が「いかに税金を安くするか(節税)」を思い浮かべます。しかし、実務の現場で最も重要なのはそこではありません。

私は税理士として数多くの相続案件に関わってきましたが、最も悲惨なケースは「税金の問題」ではなく「家族の争い」でした。仲の良かった兄弟が、たった一つの不動産を巡って絶縁状態になる。親が突然亡くなり、遺言書もなく、財産がどこにあるかも分からない。相続税の申告期限(10ヶ月)に追われて、不利な条件で資産を売却せざるを得ない――。

これらはすべて、生前の対策で防げた問題です。

相続対策には、絶対に守るべき「優先順位」があります。

優先順位対策カテゴリ目的
第1位遺産分割対策(争族対策)家族が揉めないようにする
第2位納税資金対策税金を払う現金を確保する
第3位節税対策税金を合法的に減らす

⚠️ 注意

この順番を間違えて「節税のためにアパートを建てた結果、遺産分割ができなくなり、納税資金も足りなくなった」という失敗事例は後を絶ちません。節税は3番目。まずは「分け方」と「払い方」を固めてから、初めて節税を検討するのが鉄則です。

今回は、この3つの柱に沿って具体的にやっておくべきことを網羅的に解説します。


第1位:遺産分割対策(争族対策)【最優先】

親族間での争いを防ぎ、スムーズに資産を承継させるための対策です。「うちの家族は仲が良いから大丈夫」と思っている方ほど危険です。

やるべきこと①:財産目録の作成

何がどこにあるか分からなければ、分けようがありません。プラスの財産だけでなく、借金もすべて洗い出します。

財産カテゴリ具体的な内容必要な書類・情報
不動産土地・建物・借地権登記簿謄本、固定資産税評価証明書、実勢価格(査定書)
金融資産預貯金・株式・投資信託銀行名・支店名・口座番号、証券口座の一覧
生命保険死亡保険金・満期保険金証券番号、受取人、保険金額
負債住宅ローン・事業借入借入残高、返済予定表、連帯保証の有無
デジタル遺産ネット銀行・暗号資産・サブスクID・パスワード・ウォレット情報
その他車・貴金属・ゴルフ会員権時価の把握

💡 ポイント

「デジタル遺産」の整理は現代の相続対策で最も見落とされがちな項目です。ネット銀行の口座は通帳がないため存在自体が相続人に気づかれないケースが増えています。暗号資産はウォレットの秘密鍵を紛失すると永久にアクセスできなくなります。一覧表を作成し、金庫やエンディングノートに保管してください。

やるべきこと②:遺言書の作成

法的な効力を持つ遺言書を残すことで、遺産分割協議の手間やトラブルを大幅に回避できます。遺言書があれば、原則として遺産分割協議は不要です。

種類作成方法メリットデメリット
公正証書遺言公証役場で公証人が作成紛失・改ざんリスクなし。検認不要。最も確実費用がかかる(5〜20万円)。証人2名が必要
自筆証書遺言(法務局保管)全文を自書し法務局に預ける手軽で安価(保管料3,900円)。検認不要内容の妥当性は保証されない。全文自書が必須
自筆証書遺言(自己保管)全文を自書し自分で保管いつでも無料で作成可能紛失・改ざんリスク大。家裁の検認が必要

⚠️ 注意

遺言書を書く際は「遺留分」に配慮してください。遺留分とは、法律で保障された相続人の最低限の取り分です。遺留分を侵害する遺言は有効ですが、相続人から「遺留分侵害額請求」をされるリスクがあります。結果的に現金で支払うことになり、かえって争いが長期化することがあります。

やるべきこと③:「付言事項」で想いを伝える

遺言書には法的効力のない「付言事項」を添えることができます。「なぜこのように分けたのか」「家族への感謝の言葉」を記すことで、相続人の感情的な納得感を高める効果があります。法律論だけでは解決できない「気持ちの問題」に対するアプローチです。

やるべきこと④:生命保険の受取人を最適化する

死亡保険金は原則として「受取人固有の財産」となり、遺産分割協議の対象外です。これを活用すれば、遺産分割のバランス調整が可能です。

  • 具体例:不動産は長男、現金は次男に相続させたいが、不動産の方が価値が大きい場合 → 次男を受取人とする生命保険を設定すれば、総受取額のバランスを取れる
  • 代償分割資金としての活用:不動産を相続した子が、他の相続人に代償金を支払う際の原資として利用

やるべきこと⑤:家族会議の開催

親が元気なうちに、資産状況の共有や「実家を将来どうしたいか(維持か売却か)」について意向を話し合っておくことが、最大のトラブル予防策です。

💡 ポイント

家族会議は「お金の話」ではなく「みんなの将来の話」として切り出すのがコツです。「自分に万が一のことがあった時、みんなが困らないように整理しておきたい」という前向きな理由であれば、子供たちも話を聞いてくれるはずです。税理士やファイナンシャルプランナーに同席してもらうと、感情的な対立を避けやすくなります。


第2位:納税資金対策【重要】

相続税は原則「現金一括払い(申告期限は10ヶ月以内)」です。不動産オーナーは資産の大部分が不動産であるため、この問題は特に深刻です。

やるべきこと①:生命保険で「すぐ使える現金」を確保

  • 相続発生直後は銀行口座が凍結されます。しかし、死亡保険金は受取人が直接保険会社に請求でき、通常1〜2週間で入金されます
  • 葬儀費用、当面の生活費、そして相続税の納税資金として即座に活用可能
  • 一時払い終身保険なら、高齢の方でも加入しやすく、保険料がほぼそのまま保険金として戻ります

やるべきこと②:不動産の「売却準備」を生前に済ませる

相続後に慌てて不動産を売ろうとしても、すぐには売れません。以下の準備を生前に済ませておくことで、必要時にスムーズに現金化できます。

準備項目内容費用目安
境界確定測量隣地との境界を確定し、測量図を作成30〜80万円
分筆大きすぎる土地を分割して売りやすくする10〜30万円
遊休地の売却使っていない土地や低収益物件の処分仲介手数料3%+6万円
建物の老朽化対策古い建物を解体して更地にしておく木造150〜300万円

⚠️ 注意

境界確定測量は隣地所有者の立会いが必要なため、3〜6ヶ月かかることがあります。相続発生後に始めると申告期限に間に合わない可能性があります。元気なうちに済ませておくのが鉄則です。

やるべきこと③:自社株の対策(経営者の方)

会社経営者の場合、自社株式の評価額が想定以上に高くなるケースが多発しています。

  • 株価対策:退職金の支給、含み損の実現、不動産の取得などにより株価を引き下げる
  • 事業承継税制:後継者が株式を承継する場合、一定の要件を満たせば納税が猶予・免除される制度があります。ただし要件が厳しく、適用後も継続要件があるため慎重に検討が必要です
  • 自己株買い:会社に自社株を買い取らせることで、現金化と株式の集約を同時に実現

第3位:節税対策【分割・資金の目処が立ってから】

遺産分割と納税資金の準備ができたら、いよいよ特例や非課税枠をフル活用して税金を減らします。

やるべきこと①:生前贈与で財産を移転する

  • 暦年贈与(年間110万円非課税):ただし令和6年以降、相続前7年以内の贈与は持ち戻し対象。早期着手が鍵
  • 相続時精算課税制度:年110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が大幅に向上
  • 教育資金一括贈与(最大1,500万円)・結婚子育て資金贈与(最大1,000万円):期限付き特例。使い残しには課税されるため注意
  • 住宅取得等資金贈与:子や孫のマイホーム購入資金援助に対する非課税枠

やるべきこと②:不動産で評価額を圧縮する

  • 小規模宅地等の特例:自宅(330平米・80%減額)、事業用地(400平米・80%減額)、貸付用地(200平米・50%減額)の適用可否を確認
  • 賃貸物件の建築・購入:貸家建付地評価+建物評価減+借入金控除のトリプル効果

やるべきこと③:非課税枠を最大化する

  • 生命保険の非課税枠:500万円×法定相続人の数。現金を保険に変えるだけで適用
  • 養子縁組:基礎控除・保険非課税枠を増やす。ただし2割加算の対象になることも
  • 配偶者の税額軽減:法定相続分 or 1億6,000万円まで非課税。ただし二次相続を考慮した配分が必須
  • 墓地・仏壇の生前購入:非課税財産。生前に購入して現金を減らす

💡 ポイント

節税対策は「税理士によるシミュレーション」が大前提です。例えば、配偶者控除を最大限使って一次相続の税金をゼロにすると、二次相続で子供たちの税負担が倍増することがあります。一次相続と二次相続のトータルで最適化する視点が不可欠です。


相続対策のタイムライン:いつまでに何をすべきか

タイミングやるべきこと理由
今すぐ財産目録の作成・相続税の試算現状を知らなければ対策は立てられない
3ヶ月以内遺言書の作成・家族会議争族対策は早いほど効果的
6ヶ月以内生命保険の加入・見直し年齢が上がるほど保険料が高くなる
1年以内境界確定測量・不動産の売却準備測量には3〜6ヶ月かかる
毎年継続生前贈与の実行(110万円/年)7年間持ち戻しルールがあるため早期開始が必須
定期的財産目録の更新・遺言書の見直し家族構成や資産状況の変化に対応

まとめ:すべてのスタート地点は「財産の棚卸し」

相続対策はやることが多くて大変そうに見えますが、すべてのスタート地点は「今、財産がどれくらいあるか(財産目録)」を知ることです。

その上で、

  1. どう分けるか(遺言) → 家族が揉めない仕組みを作る
  2. どう払うか(保険・売却) → 納税資金を確保する
  3. どう減らすか(贈与・不動産活用) → 合法的に税金を減らす

この順番で進めれば、大きな失敗は防げます。「自分の場合はどうなる?」と気になった方は、まず税理士に相続税の試算を依頼してみてください。現状を数字で把握することが、最も確実な第一歩です。


関連記事