引き渡しが終わっても、売却は終わりません。最後に、翌年の確定申告が残っています。ここまでに積み上げた取得費・譲渡費用・特例を、紙の上で形にする作業です。
期限は売った年の翌年2月16日から3月15日まで。使うのは「申告書第三表(分離課税用)」と「譲渡所得の内訳書」の2つです。特例を使うなら、その特例ごとに添付書類がつきます。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体の流れは 不動産売却の全体像。この記事は章8「申告して納める」の解説です。
この記事でわかること
- 売却の申告は給与とは別枠(分離課税)で計算する
- 使う用紙と、特例ごとの添付書類
- 税額がゼロでも申告しないと特例が使えない
- 住民税は翌年6月から。国民健康保険料やふるさと納税にも響く
1. 売却のもうけは、給与と合算しない
不動産の譲渡所得は、給与や事業の所得と合算せず、別枠で税率をかけます(分離課税。租税特別措置法31条・32条)。だから、給与が高い人でも売却益の税率は変わりませんし、逆に売却益が出ても給与の税率は上がりません。
| 所有期間(売った年の1月1日時点) | 税率 |
|---|---|
| 5年以下(短期譲渡所得) | 39.63%(所得税30% + 復興特別所得税 + 住民税9%) |
| 5年超(長期譲渡所得) | 20.315%(所得税15% + 復興特別所得税 + 住民税5%) |
→ 不動産売却の譲渡所得税──分離課税の仕組みと、税率が2倍変わる「5年」の判定
2. 用紙は2つ、添付書類は特例ごと
提出するのは次のとおりです。
- 確定申告書(第一表・第二表)と第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕……売った物件、買ったときの金額、費用、特例をここに書きます
これに、次の資料を添えます。
| 使う特例 | おもな添付書類 |
|---|---|
| 共通 | 売買契約書の写し(購入時・売却時)、仲介手数料などの領収書の写し |
| マイホーム3,000万円控除 | 売った家屋の登記事項証明書。住民票の住所が違う場合は戸籍の附票など |
| 空き家の3,000万円控除 | 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村が発行)、耐震基準適合証明書など |
| 10年超の軽減税率 | 登記事項証明書(所有期間の確認) |
| 相続税の取得費加算 | 相続税の申告書の写し、取得費加算の計算明細書 |
市区町村が出す確認書は、申請から交付まで数週間かかることがあります。3月に入ってから動くと間に合いません。
3. 税額がゼロでも、申告はする
特例を使って税額がゼロになる場合でも、申告しなければ特例は適用されません。「払う税金がないから出さなくていい」は、この場面では通りません。
【モデル事例】 高橋さん(仮)は自宅を売り、もうけが2,400万円。3,000万円控除で税額はゼロになると聞いて申告しなかった。翌年、税務署からお尋ねが届き、期限後に申告することに。特例自体は使えたが、手間と不安が残った。
税務署は、法務局からの情報で「誰が不動産を売ったか」を把握しています。申告しないと、まずお尋ねが届きます。
4. 納付と、そのあとに来るもの
- 所得税……3月15日までに納付。振替納税なら4月中旬の引き落とし。半分を納めて残りを5月末まで延ばす延納も選べます(利子税がつきます)
- 住民税……申告した年の6月から。会社員なら給与天引きが増えるか、普通徴収の納付書が自宅に届きます
忘れやすいのが、住民税の時期です。3月に所得税を納めて終わったつもりでいると、6月に大きな納付書が来て慌てます。売却代金は使い切らず、税金分を先に別口座へ寄せておくのが安全です。
もうけが出ると、翌年の次のものにも響きます。
- 国民健康保険料・後期高齢者医療の保険料……所得で決まるため、翌年度に上がります
- 医療費の窓口負担割合……一定の所得を超えると、1割から2割・3割へ上がることがあります
- ふるさと納税の上限……売却益の分だけ上限が増えます。売った年のうちに使わないと、翌年には戻ります
とくに保険料と窓口負担は、高齢の親が実家を売ったときに効いてきます。税額だけを見て判断しないでください。
5. 損が出たときは
売って損が出ても、原則としてその損を給与など他の所得と通算することはできません。ただしマイホームを売って損が出た場合には例外があり、一定の要件を満たせば給与所得などと通算し、翌年以後3年間くり越せます(租税特別措置法41条の5、41条の5の2)。この場合も申告が必要です。
まとめ
- 売った翌年の2月16日〜3月15日に申告。第三表と譲渡所得の内訳書を使う
- 特例ごとに添付書類が違う。市区町村の確認書は数週間かかるので早めに動く
- 税額がゼロでも申告しないと特例は使えない
- 住民税は6月から。国民健康保険料や医療費の窓口負担にも翌年度から響く
→ 次に読む:大家の所得税──不動産所得の計算から確定申告までの基本/賃貸経営の全体像(売らずに貸し続ける道)
出典
- 所得税法120条(確定所得申告)、128条(納付)
- 租税特別措置法31条・32条(長期・短期譲渡所得の課税の特例)、35条(居住用財産の特別控除)、41条の5・41条の5の2(居住用財産の譲渡損失)
- 地方税法32条・313条(住民税の所得割の課税標準)
- 国税庁「譲渡所得の申告のしかた」「確定申告書付表兼計算明細書〔土地・建物用〕」
※確認日:2026年8月7日。保険料や窓口負担の基準は制度改正で変わります。高齢の方の売却は、事前に影響を確認してください。
「不動産売却」の入口は2つあります
